猫になって君にキスをして

真治の頭のすぐ左上に、味噌ラーメンが置いてある。

ほとんど手を付けていないらしいそのラーメンは、

器からあふれてしまうほど伸びきっていた。

チャーシューだけは、半分かじられていた。


伸びきったラーメンの、ミミズのような出で立ち。


「にゃ……」
(気持ち悪りぃ)


少々戸惑ったが、スープの匂いに負けて器からピロンとはみ出ている一本をくわえてみた。

すすろうと思ったが、出来ない。

猫の肺活量の問題か。


仕方ないのでカウンターの上に上がり、

口に麺をくわえたまま、30センチほどバックした。


麺がびろーんと伸びたところを、すかさず前へ進み、舌で絡みとりながら器まで戻る。

そんなことを繰り返しているうちに、溢れていた麺は、2センチほど減っていた。


「にゃにゃ?」
(なんだよ、結構美味いじゃん、このラーメン)


店の佇まいに犬猿し、この店に入ることは過去一回もなかったのだが……。

このラーメンは、美味いぞ。

ついでにスープも舐めてみた。

すっかりぬるくなっていたが、美味かった。

こりゃ大発見だ。


「にゃにゃ!」
(オヤジ、美味いぞ)


メロドラマに集中する赤ら顔のオヤジに声をかけてやったが、

オヤジはまるっきり気づかなかった。

時折、うんうんとTV相手に頷きながら真剣な表情で画面に食いついている。


猫に食われている客のラーメンなど、おかまいなしだ。


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