六年一組、本紛失事件
「笈滝、スープは残すなよ。給食室におかわりしたんだし、それに、よそってもらうときに、減らさなかったお前の責任だからな」

 高基教諭の言葉は笈滝に重圧でしかなかった。

「もう……」

 笈滝は高基教諭に本当ことを言いたいが、高蔵が怖くて言えなかった。

「世界のほとんどの国は貧しくて、ご飯さえ食べられないんだぞ! 先進国だけ、たくさんの食べ物が氾濫していて、発展途上国は食べる物がなくて、困っているんだ。簡単に食べ物を粗末するようでは、農家の人たちが一生懸命作ったことに感謝してないことになるんだぞ」

 この苦しいときに笈滝の耳には御託にしか聞こえない。

「感謝しています。でも……」

 笈滝は薄っすら涙が目に溜まっていた。
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