六年一組、本紛失事件
「食べるよ……」

 笈滝は元気なく言って、皿を口の近づけ、スープを口の中に流しこんだ。嫌な物を飲みこむように目はつぶったままだった。

 馬屋は顔を下に向き、肩が震えている。

 笈滝はスープを飲み乾したように見えたが、すぐに皿に吐いた。

「何だよ。汚ねーな」

 馬屋は露骨に顔をしかめた。

 笈滝の目から涙が流れた。

「先生、もう、いいでしょ?」

 アリスは高基教諭に迫った。

「しかたがない。明日からこんなことがないようにな」

 教室に残っている生徒たちは笈滝を軽蔑するかのように、目を細めて見ていた。
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