六年一組、本紛失事件
26 田脳の恐怖心
 田脳は息を切らしていた。

 音楽室まで走ったからである。二重のドアの一枚目を開け、そして、二枚目も開けた。
 
 無音だった。

 田脳は辺りをじっと見渡した。誰もいないことを願った。いれば何の話をすればいいのかわからないので不安だからだ。

 誰もいない。

 そう思いたかった。

 田脳の耳に低い声が聞こえた。

 男性の声だ。

 目を凝らすと、音楽室の隅っこに人がいたのだ。

 田脳は夢であってほしいと願って、頬をつねってみたが、痛さが伝わり、睡眠中ではなかった。
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