六年一組、本紛失事件
「あ、あの……」

 田脳がいつの間にか現れたのだ。タイミングの悪い男というものは、狙ってなくても、現れるのだ。

「何だ!」

 波教頭は田脳の存在すら興味がない。軽く手で押すと、田脳はそのまま後ろに下がってしまった。

 もう一発、廊下に殴る音が響いた。高基教諭は反撃もしないでじっと堪えた。

「クソっ!」

 波教頭は怒りが治まらないのだ。抱き合っている二人を見てしまったからだ。高基教諭の顔面に唾を吐き捨て、廊下を歩き出して行った。

「だ、だ、大丈夫ですか?」

 波教頭がいなくなり、田脳が高基教諭の呆然としている姿を見て言った。
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