彼と私の関係〜もう1つの物語〜
顔を正面に向け少し上げると、目の前には彼の肩があった。
頬に感じた感触は彼の着ているスーツの生地。
痛みは彼の胸に私の顔が押し付けられたから。
抱きしめる彼の力強い腕は、穏やかな彼から想像がつかないぐらい男性を感じるもので。
「奈央……」
彼の形のいい唇が私の耳元にあるのが、漏れる吐息ではっきりと分かる。
そして小さく囁かれる名前。
その声が震えているのも伝わってくる。
彼はきっと困っている。
どうして……
――伝えてしまったんだろう?