彼と私の関係〜もう1つの物語〜
ふと前に居る男性の上着を見ると、仕付け糸がそのままになっている。
声を掛けようか迷っているとエレベータの扉が開いた。
定員20名が乗れるエレベータは朝のラッシュとあって込み合っていて、私は流されるまま奥へ奥へと詰め込まれる。
階数ボタンの傍に居る女性にボタンを押してもらおうと口を開きかけると……
彼女は躊躇いもせず口に出そうとしていた階数のボタンを押した。
会社の人だと気付いたのは、その階は入社した会社がワンフロアを借り切っていたから。
人混みの間から少しだけ見えた顔はとても利発そうで、私より確実に年上だと思った。