web claps【BL】
 
「……そろそろ、帰ろうか」


 会話を終わらせるのはちょっと躊躇ったけど、滅多に降らない雪の所為で事故に巻き込まれでもしたら大変だ。

 店の外に出ると、雪の日の独特の寒さが広がっていた。

 車のエンジンを掛けて暖房の温度を一気に上げると、フロントガラスが曇ってしまった。

 空調を操作しようと伸ばした僕の手を、君が不意に掴まえる。


「何?」


 フロントは真っ白。
 外は、雪。


 外界から隔離されたこの空間で。

 ただ無言のまま、僕と君の唇が重なる。


「今日はまだ、してなかったから」

「そうだね」


 僕は君に笑いかけて、もう一度。


 重なった唇から伝わる、君の体温。

 重なった唇から伝わる、君の感情。


 僕のも、君に伝わっているよね?


「……帰るか」


 そっと離れた君の唇が、小さく動く。

 このまま君の体温が離れていってしまうのが嫌だと思った僕は、左手で君の右手を掴まえる。

 空いた右手で窓の曇りをとって、ステアリングを握った。


 何故だろう。

 僕も君も、互いの指を絡めたまま、言葉を発しなかった。

 エンジンの音と、フロントガラスに当たる雪の音と、君が好きな音楽の音。

 確実に別れの時が近付いているのに、2人きりの空間が僕に永遠を感じさせた。


 30分程薄暗い道を走り、一件の家の前に車を停める。


「ありがとな」


 僕の手をぎゅっと握り締めた君はそう言い残し、車を降りてしまう。


「──ねぇ」


 反射的に僕は、呼び止めていた。


「……また、メールするから」

「おう。じゃあな」


 軽く手を振る君に倣って、僕も手を振る。

 うっすらと白くなったアスファルトに足跡を残しながら、君は僕の前から消えてしまった。

 ヘッドライトに照らされた、白い足跡を残して。
 

fin
 
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