短編■ 制服の頃

例えば春。新しいクラスメートへの緊張なんてどんなだったろう。

秋の放課後、夕暮れの中友達と肉まん片手に二人乗りをしたり、

冬の寒い日に体育をさぼってカイロを貸してと喚いたり、

保健室にはヤンキーな先輩が居るから気持ち化粧を薄くしたり、


その時の普通が、今になれば最高に懐かしくて切なくて――…


泣きたくなるのは何故。


女子高生をしていた頃に流行った歌を今 聞くと、当時の教室の雰囲気が鮮明に蘇る。

戻れないからこそ、何故か泣きたくなる。

香水の香りや、流行ったファッション、ヘアスタイル…

―――懐かしいだけ。


プリクラを眺めると、ますます戻りたくなるばかりだ。

戻れないから美化するのだろうか。


今の現状に不満はないのに、未来に戸惑いはないのに、

あの頃に戻りたくて堪らない。


あの頃に戻れるなら…貯金を全部手放せるくらいに。

失恋した時よりも昔を思うと懐かし過ぎて苦しくて―――


< 3 / 12 >

この作品をシェア

pagetop