短編■ 制服の頃
車なんかいらない。夜なんかいらない。お金なんかいらない。
あの頃は素晴らしい、そう叫びたい。
現地集合待ち合わせ、歩いてデート。
門限がある、日が変わる前にバイバイ。
たまに奢るが、普段は割り勘。
そんな感じが微笑ましい。
いちいち車で迎えなんて嫌だ。
車があるから遊びが広がるばかりで。思い出が分散するばかりだ。
週末はお泊りが定番になるのが嫌だ。
門限があるから、会えないから、好きだと思えるのに。日付が変わるありがたみがなくなるじゃないか。
ブランド品なんか嫌だ。
お金があるから、無難なプレゼントばかり。もっと中身が欲しい。
焦燥感に駆られるのは、茹だる暑さが急に涼しくなった季節。
突然、放課後の頃に涼しい秋風に気付く瞬間、一番切なくなる。
――寒くなると切なくなる。
太陽が終わり夜になる前の僅かな時間帯、白が目立つ時間帯、
切ないを切ない以外で言い表せないのは何故。
夏の終わり、秋になりかけのあの柔らかい風が切ない。
戻りたい。