短編■ 制服の頃

車なんかいらない。夜なんかいらない。お金なんかいらない。

あの頃は素晴らしい、そう叫びたい。


現地集合待ち合わせ、歩いてデート。

門限がある、日が変わる前にバイバイ。

たまに奢るが、普段は割り勘。


そんな感じが微笑ましい。

いちいち車で迎えなんて嫌だ。
車があるから遊びが広がるばかりで。思い出が分散するばかりだ。

週末はお泊りが定番になるのが嫌だ。
門限があるから、会えないから、好きだと思えるのに。日付が変わるありがたみがなくなるじゃないか。

ブランド品なんか嫌だ。
お金があるから、無難なプレゼントばかり。もっと中身が欲しい。


焦燥感に駆られるのは、茹だる暑さが急に涼しくなった季節。

突然、放課後の頃に涼しい秋風に気付く瞬間、一番切なくなる。

――寒くなると切なくなる。


太陽が終わり夜になる前の僅かな時間帯、白が目立つ時間帯、

切ないを切ない以外で言い表せないのは何故。


夏の終わり、秋になりかけのあの柔らかい風が切ない。

戻りたい。


< 7 / 12 >

この作品をシェア

pagetop