思いを手のひらにのせて
voice3 いやな思い出
小さな怒りの理由は、わたし自身の過去と
河野の話がリンクしたからだ。

わたしは小さい頃から客室乗務員に
あこがれていた。

高校を卒業したら、
そのための専門学校に入ろうと思っていた。

ところが父の急逝により、
夢を断念せざるを得なかった。

父の葬儀が終わり、
残されたわたしたち家族には
悲しみに浸る暇など無かった。

全てリセットするかのように
現実の生活へと戻らなければならなかった。
 
わたしは進路指導室をたずねた。
進路を進学から就職希望に変更したので、
聞いておかなければならない事が
たくさんあった。

担任の鈴木先生は、
進路指導室主任なる役割を担当していた。

鈴木先生はひどくわたしに気をつかった。

父を亡くしたわたしに、
どう言葉をかけようか
迷っている様子が伺えた。

その気遣いが辛く、そしてありがたかった。

就職に関する資料を机の上に置き、
伏目がちで説明をしてくれた。
 
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