思いを手のひらにのせて
その時進路指導室の引き戸が開き、
英語を担当する陰山が入ってきた。
 
陰山には一年の時教わった。

授業中、つまらないことで
頻繁に怒りをあらわにする教師。

陰山のイメージはそんな風だった。

ヒステリックに急に怒り出すので、
クラスの誰もが最初はびびっていた。

やがて誰もが扱い方に慣れていった。

真面目にやっている振りさえしておけば
機嫌を損ねることはなかった。
 
「柴崎さん、お父さん、大変だったわね」

 陰山がわたしに話しかけてきた。
ここまではごく一般的なやりとりだった。
 
「でも良かったじゃない。
客室乗務員なんてきつい仕事らしいし、
あなた、背がそんな高くないから
あきらめるきっかけができたと思えば。
やめておいて正解よ」
 
無神経な言葉にあっけに取られた。

あいた口がふさがらないと言うのは
こういうことなのだろう。

鈴木先生も驚きのあまり
言葉につまっているのが容易に伺えた。
 
「あらっ、忘れ物しちゃった。
やあねえー、歳をとるとこれだから」
 
やかましく戸を閉め、
陰山は部屋を出て行った。

鈴木先生が大きくため息をついた。
 
「君は鋭いからわかっているよな。
あの人は全然悪気はない。正直なだけで」
 
申し訳なさそうにする
鈴木先生が気の毒だった。
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