思いを手のひらにのせて
ただ、幸太がわたしのことを
どう思っているのか、聞けずにいた。

障害を支援してくれる
親切な健常者としてしか見ていないのか、
確かめるのが恐かった。
 


幸太と出会ってから半年ほど経った。
 
わたしは幸太と響優人の個展にいった。

響優人の詩に、ファンから寄せられた
絵を添えて一緒に展示するという
企画だった。
 
幸太は『思いを手のひらにのせて』の
詞の前で立ち止まっていた。

   
思いを手のひらにのせて 
 
  
当たり前だとおもっていたもの
  それがどんなに大切なのか気づくのは
  それを失くしてからだなんて
  多くの人が言う

  幸せの青い鳥は旅に出かけても
  見つけることができなかった
  
  本当はいつでも家の中にいて
  可愛いさえずりを聞かせてくれていた

  子どもの頃 母が読んでくれた
  物語の意味を
  傷つくことで理解できた

  今度こそ 今この瞬間を
  大切にしていこうと思った

  
  今の君はあの時のぼくと同じ
  自分のおろかさを責め
  心を閉ざしてしまったまま
  
  眼を閉じ 耳を塞ぐのなら
  
  思いを手のひらにのせて
  きみの心に届けよう

  伝えられるまで 何度も何度も
  君の手を握りしめるよ
 

幸太はつぶやいていた。


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