思いを手のひらにのせて
自分の声を
今一つ認知しきれないせいか、
つぶやくと言うより、
朗読に近いくらいだった。

ちょうど周囲に誰もいなかった。

わたしは幸太に気づかれないように、
幸太の声に耳を傾けていた。


わたしたちは個展会場を出た。

どこにでもいる恋人同士のように
一緒に昼食をとった。

電車を何度も見送って、
他愛ない時間を過ごした。
 
薄暗くなってきた。

もう帰ろうと幸太に促され
改札へ向かった。
 
すると見覚えのある服を着た女性が
わたしの視界に入った。

母だった。

気がつくのと同時に
「あら? 美緒‥‥‥」と
母がわたしを呼び止めた。
 
わたしは母を指差し、
「わたしのお母さん」と
幸太に手話で伝えた。
 
幸太は母に、
「音無幸太です。美緒さんには
いつもお世話になっています」と挨拶した。

母も幸太に
「こちらこそ、お世話になっております」と
ありふれたフレーズで挨拶を返した。
 


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