思いを手のひらにのせて
これまでにも
聞こえなくなった当時のことは
いろいろ聞いてきた。

恋人に関して聞かされたことは、
この時がはじめてだった。
 
幸太の恋人も、響優人のファンだった。

それなのに
孝太の耳が聞こえなくなったことが
きっかけで、一切その話をしなくなった。
 
幸太自身も間違えて
テレビのボリュームを
大きくしてしまったことがある。

そんな様子を
彼女は辛そうに見ていたという。
 
「彼女も友達も、
ぼくにどう接していいのか
わからなかったのだろうね。
ぼく自身、自分の身に起きた不幸を
受け止められなかったし」
 
わたしはその光景を想像してみた。

朝、目覚めてテレビをつける。

ボリュームが小さければ
リモコンで音量を上げる。

そんな日常の中の何でもない一こまが、
いつもと全く違ってしまうのだ。
  
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