思いを手のひらにのせて
「彼女とはどうなったの?」
 
わたしは平静を装い、
幸太に一番聞きたかったことを聞いた。
 
幸太は、その頃の記憶を
ゆっくり辿っているようだった。
 
「別れた。
というよりぼくが彼女との連絡を避けた。

最後の電話で、
同情で側にいるのなら迷惑だー、
なんて捨て台詞を吐いてしまってさ」
 
幸太は軽く目を閉じた。

一言一言、丁寧にはなしてくれる。
 
「それでもぼくを
追いかけてきてくれるだろうなんて、
下心もあったな。今思えば。
つらいのは自分だけ。
彼女はぼくを支えてくれて当たり前。
一緒にいる人間のつらさなんて
想像もつかなかった」
 
そうなんだ。

相槌が声になっていなかった。

幸太の話は
わたしは心に染みとおってくるようだった。

「彼女がぼくの部屋に響優人の詩集を
忘れていた。わざと置いていったのかな。

しおりが挟んであったページが
『思いを手のひらにのせて』だったんだ。

それまで当たり前に
詞の良さをわかってるつもりだったけど、
感じ方が違った気がした。あの時は」 
 
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