思いを手のひらにのせて
どん底から這い上がった人は強く優しい。
 
そんな幸太の側にわたしはずっといたい。

もっと幸太のことを知りたい。

思いが更に強くなっていくのを感じていた。
 
「彼女がどれだけ
ぼくを支えようとしてくれていたのか、
いなくなってはじめて気がついた。

それからかな。

落ち込んでても
聞こえるようになるわけじゃないし、
今の自分にやれることを
やっていこうと思ったんだ」
 
だから幸太はこんなに瞳がきれいなんだ。

いつも前を向いている。

そう思ったことを言葉にしようと思った。

それなのにタイミングを失ってしまった。
 
それから幸太にずっと諭された。
 
「例えば美緒が母親だとして、
自分の子どもが重度の障害者と
結婚したいと言ってきたら、どうする?」

どきっとした。

受け入れられるだろうか? 

確かに覚悟がいるだろう。


「美緒がいてくれて良かった。
コンサートにもカラオケにも
誘ってくれて楽しかった。

ずっと一緒にいたいと思ったけど、
打ち明けていいのかためらっていた。

聞こえなくなったのは仕方ないけど、
相手にまで背負わせて
いいものかどうかって考えてしまうからね」
 
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