思いを手のひらにのせて
ちょっと幸太は照れ臭そうだった。

初めてわたしへの気持ちを聞かせてくれた。

嬉しくて、ちょっと切ない告白だった。

早く何か答えよう。

そう思うのに言葉が出てこない。
 
駅名を告げるアナウンスが車内に響いた。

もう降りなくてはならない。
 
「ありがとう」
 
たった一言が
その時のわたしの精一杯だった。
 
わたしは「じゃあ」と
幸太の前をすり抜けた。

幸太は立ち上がった。

電車を降りるわたしを見送ってくれている。

「お母さんに謝ったほうがいい」

振り返って幸太と向かい合うと、
幸太は笑顔で小さく手を振った。

わたしが「ありがとう」と
もう一度言うのと同時に
電車の扉が閉まった。

わたしも小さく手を振りながら、
遠くなっていく幸太を見つめていた。
 
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