思いを手のひらにのせて
ホームの階段を上っているとき、
メールの着信音がなった。

幸太からだった。

 
美緒、

今日はずっと美緒に伝えたかったことを
やっと話すことができて、
すごく満足してます。
 
もう一つ話したいことがある。

聞こえなくなったことで
わかったことがあるのです。
 
耳が聞こえていても、
全部を伝えられるわけじゃない。

わかりあえるわけじゃない。

聞こえるから伝えられないこともあるな、
と聞こえなくなったことで
思うようになりました。
 
美緒はいつでも自分の思うこと、
嬉しいことも悲しいことも
ひたむきに伝えようとしてくれました。

美緒のそんな素直さ、透き通った心に
いつの間にか惹かれていました。
 
今度会ったとき、こんなメールではなく
ぼくの言葉でもう一度伝えます。

では、おやすみなさい。


携帯の画面を
どれくらい凝視していただろう。

思いもよらず涙が流れてきた。

わたしは立ち止まったまま、
メールから目を離すことができなかった。

涙が止まらないのに、笑顔が止まない。
 
通りがかりのサラリーマン風の男性が
心配そうに声をかけてくれた。

どこか具合でも悪いのですか、と。

わたしは涙を拭い、
大丈夫ですとその場を離れた。
 
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