思いを手のひらにのせて
voice5 未来へ
家に着く頃、
やっとわたしは平常心を取り戻していた。
 
ここ何日間か母とろくに口を聞いていない。

一息ついて母に話しかけた。

「あの、お母さん」

「何?」
 
テレビの前に座った母が振り返った。
 
「この間は、ごめん」

母はまたテレビの方を向いた。
 
「とってもよくできた彼氏ね。
あの人に説得されたんでしょう?」
 
言い当てられ、わたしはあわてふためいた。
 
「どっ、どうしてわかったの?」

母は新聞をめくって、テレビ欄を見ている。
 
「わかるわよ。
美緒は自分が納得しなきゃ
謝らないでしょう」
 
母の鋭い指摘にわたしはたじたじになった。
 
「お母さんもね、若い頃、目の見えない人と
つきあったことあるのよ」
 
「えー、初耳!」
 
わたしは母のとなりに座り込んだ。
 
「やっぱり周囲に反対されたわ。
その彼に
『同情でぼくとつきあっているの?』って
言われたこともあるし」
 
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