思いを手のひらにのせて
「そんなこと言うんだ。
それってショックだったね」
 
今幸太に聞いた話と重なった。
 
「若かったからね。お互い」

母にそんな過去があったことなんて
全く知らなかった。

わたしは
やっと母の忠告の真意を理解できた。
 
「でも美緒は
自分が納得するように生きたらいいと思う。
人間なんて、
ほんとは自分が思うようにしか
生きられないのだから」
 
母は昔からわたしの一番の理解者だった。

それは今も変わらない。
 

それからも
わたしは熱心にサークルに通った。

その割に手話も要約筆記も
なかなか上達しない。
 
日本語ならわかるから、
要約筆記ならなんとかなるだろうと、
少し簡単に考えていた。

ところがそんなものではない。

頭の中で
まとめて書きながら聞いて、その繰り返し。

気が遠くなるような作業だ。

手話は手話で、
ドラマで見るのと大違いだった。

ゆっくり手話表現してもらえると、
なんとか読み取れる。

しかし聴覚障害者同士の会話となると、
あまりの早さについていけない。
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