思いを手のひらにのせて
「何? 今の表現? もう一度やって」と
何度も聞きなおさなければならない。
 
そんな時、よく河野守が口を挟んでくる。

わたしが初めて見学にきた時、
聴覚障害者について説明してくれた男性だ。
 
『手話を読み取る時、どこを見ている? 

手だけ見ていちゃダメだ。

手話は口の動きも表情も体も
全部で表現する言葉なのだから、
全体を見て。

手の動きは補足だと思えばいい』
 
何度この指摘を受けたことか。

その度に落ち込んでしまう。
 
前にも読み取りが全くできなくて
溜息をついていたことがあった。

その時、河野が
『やめるなよ。

健聴者は手話だろうと要約筆記だろうと、
やめても何も変わらないだろうけど、
聴覚障害者は
一生聞こえない生活が続くのだよ。

だから学び始めたのなら続けて欲しい』と
表現して見せた。
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