向こう。
抱きしめる力が一層強くなり、さらに俺に頬擦りまでしてくる。

「なんだよっ!
痛いって…!
や、髪、くすぐったい…っ」

「凪、ありがとう!」

俺が恥ずかしさから身をよじっても、舞瀬は少しも離そうとはしない。
声からも行動からも舞瀬の嬉しさが出ている。

俺も嬉しかった。
こんな思いが出来る日が来るなんて、かつては思っても見なかった。

俺と舞瀬は全身で幸せを感じていた。
しかしそういうときに限って、それが長く続かない。

「…凪、今何時だ?」

「え?
えっと…九時半だよ?」
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