Wissenschaft vs. die Magie
椅子のキャスターを転がしながら振り向く。

「順調かね」

初老の男性が、好々爺の顔で私を見た。

この国際科学研究所の所長だ。

「はい。滞りなく進行しています」

マグカップを受け取り、私は笑みを浮かべながら頷いた。

一本だけ反抗的にはねた頭頂部の髪の毛が、頷きに合わせて揺れる。

こんな天才に『アホ毛』が生えているなんて、何だかおかしな話だけど。

「八王子君に『滞りない』と言われるとは、これ程頼もしい事もないね」

手近にあった椅子を引っ張り寄せ、所長もまた腰掛けた。

6年前、飛び級に次ぐ飛び級を繰り返し、12歳でアメリカのとある大学に在籍していた私。

そんな私をこの国際科学研究所に誘ってくれたのが所長だった。

「所長の言葉は今でも覚えていますよ」

私はマグカップのコーヒーを一口飲んで言った。

「『八王子棗(はちおうじなつめ)君、君に大学の講義は易し過ぎる』…単位を落としかけていた友人に申し訳なかったですよ」

「ははは…それは悪い事をした」

まるで無邪気な子供のように、所長は屈託なく笑った。

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