隠す人
供述調書3:副社長の秘書、沢渡夏子(フェロモン)

「よろしくお願いいたします」
まるで『正しい面接の受け方』のビデオのように、沢渡は深々と頭を下げた。
栗色の上品な巻き髪が、はらりと揺れる。

「どうぞ、お座りください」

「はい、失礼いたします」
その立ち居振る舞いは、いちいち正しく、そして美しい。

こんな刑事がいたら、俺自首しちゃうな。
自分が犯人じゃなくても、自首して取調べとか受けたりしたい。

思わず頬をゆるませた原田刑事の足を、西刑事が思いっきり踏んづけた。

「で、事件発生時あなたはどちらへ?」

以下は、沢渡夏子の供述調書である。

「私は副社長室で、今日のスケジュールの確認をしておりました。午前9時に重役会議、お昼に取引先との昼食会、午後は日経連の会合が入っておりました。・・・事件発生を受けて、全てキャンセルいたしましたが」

「そうですね、この一週間、社長と二宮はずっと言い争っておりました。私がここに配属されてから2年になりますが、二宮があのように怒っているのを見たのは初めてです。・・・この仕事に誇りを持っていたのでしょうね。でも、本当の秘書であれば上司の命令に逆らうなど、あり得ません」

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