隠す人
テーブルを囲む面子に、緊張が走る。
「そんな、私たちを疑うなんて。一島社長を殺したい人なんか、いるわけないです!」
疑いを向けられふくれっ面をする星野を、佐伯課長がなだめた。
「飽くまでも、可能性の話だよ」
「そういう結末だけは避けたい。私は、君たちの事を信じている」
牧沢副社長は、真摯な視線をそれぞれに送った。
「階段を通ってくれば、監視カメラに映らずにフロアに入って来れますからね。外部の犯行っていうことも、十分ありですもんね!」
「そのとおりだ。そして、恐らく外部からの侵入者による犯行、というのが事実だろう。この会社に、社長を憎むような人間はいない」
牧沢副社長は続ける。
「しかし今の段階では、我々や会社の内部に警察の疑いの目が向けられる、というのも致し方ない。私が心配しているのは・・・会社の機密事項が、捜査によって外部に漏れてしまうこと、だ」
「そうなんですよね。社長室には、今全く入れないし。あそこにはまずい書類が色々・・・」
佐伯課長が、ない髪の毛をかきむしった。
「そのことなら」
二宮が、佐伯課長の言葉を遮る。
「昨日警察が来る前に、社長室の機密文書は持ち出しておきました。前に庶務二課があった地下室に、置いてあります」
「二宮君、さすがだなぁ。よくあの短時間で」
牧沢副社長が、感心する。
「でも二宮、書棚に何も入ってなかったら、また警察に疑われるんじゃないか?」
佐伯課長が入れた横ヤリも、二宮にとっては想定済みだった。
「大丈夫です。その代わりに別な文書を入れておきましたから。・・・まぁ、何冊かは場違いなものが入ってしまいましたが」
「二宮君、大したものだ」
牧沢副社長の賛辞を、二宮は丁重に受け取る。
「恐れ入ります」
「全く、卒のない奴だな」
自分よりもずっと若い二宮の能力の高さに、いささか嫉妬しているのだろう。
言葉とは裏腹に、佐伯課長は苦々しい表情を浮かべた。
「持ち出した文書の中に、最近社内で噂になっている『あの件』に関するものは、何かあったただろうか?」
「『あの件』、とは?」
二宮が、表情を変えずに副社長を見た。