隠す人
「はい!わたし知ってる!」
星野が元気よく手を上げた。
「二重帳簿のことですよね?給湯室でお局様が話してたんだけど、表に出しちゃいけないお金の流れが書いてあるとかなんとか・・・」
指名されてないのに喋り始めた星野の口を、慌てて佐伯課長が押さえた。
「給湯室でそんな話してるの!嫌ねぇ、暇な女子社員って」
沢渡夏子が嫌悪感をあらわにする。
「・・・まぁ、その二重帳簿の件だ」
せっかく『あの件』と言葉を濁したつもりだったのが、星野によって元気よく暴露されてしまったため、牧沢副社長も仕方なくそれを認めた。
「そのような書類は、ありませんでしたが」
「そうか。実は、社長に以前、言われたことがあってね。二重帳簿に関する事実関係を調査することにした、と。社長が調査を頼むのは、君しかいない、と思っていたんだが」
牧沢副社長が、二宮を見る。
「いいえ、私は存じ上げません」
表情の読めない、涼やかな目つき。
その目の裏側に隠した思惑を、誰も読み取ることはできなかった。
「とにかく、警察やマスコミから何か聞かれても、その件についてはノーコメントを貫くこと。会社を守るためだ、いいね」