隠す人
地下から地上へ戻る階段の途中で、二宮は足を止めた。
階段の一番上に、星野美奈が無邪気な笑みを浮かべて立っていたからだ。
感情を滅多に表すことのない二宮だが、この時ばかりはため息をついた。
(またか・・・)
二宮の憂鬱をよそに、星野美奈は周囲をはばからず元気に手を振った。
「あ!二宮先輩だぁ!」
まぁ、この階段は地下に用事がなければ誰も通らない場所、周囲には誰もいないので、はばかっても仕方ないのだが。
それにしても星野のはばからなさ加減は、半端ではなかった。
「ねぇねぇ先輩、二重帳簿の噂って、やっぱりホントなんですかあ?」
かわいく小首をかしげながら歩み寄る星野を振り切るように、二宮は早足で階段を上り続ける。
「さっき課長に口閉じられたでしょう。その話は、タブーですよ」
「てことは、ホントなんですよね!」
なぜかはしゃぐ星野。
二宮が立ち止まる。
この子は、ちゃんと言ってあげないと理解できないらしい。
「星野さん。この件に、あまり首を突っ込まないほうがいいですよ」
「ねぇねぇ、教えてください!黒幕は誰ですか?」
ちゃんと言ってあげたつもりだったが、星野は理解できていない。いや、理解することを拒んでいるようにも見える。
「・・・」
この子に何と言ったら黙らせることができるのか考えあぐね、さすがの二宮も次の言葉が出てこない。
「もしかして、先輩?わー、先輩、悪い!」
「お先に失礼します」
考えあぐねた結果、二宮の出した答えは「放っておく」だった。
「先輩!」
階段に一人残された星野。
無邪気な笑顔の仮面を外し、真顔になる。
二宮の消えていった方を見上げた。
「・・・あまり隠してると身のためになりませんよ、先輩」
(3.秘密会議 終)