隠す人
*
濃いグレーの重い静寂に包まれていた遺体安置室から、一瞬の沈黙、そして嗚咽が漏れた。
「あなた・・・」
殺害された一島徹氏の夫人・美音子が旅行先のカナダから帰国し、今、夫の変わり果てた姿との悲しみの対面を果たしている。
子どものいない夫婦だった。大切な伴侶を失った、彼女の傍らで慰めてくれる者は、誰もいない。
一人、力なくすすり泣く声は、二宮が立っている部屋の外にも聞こえてきた。
「・・・」
相変わらず、表情の見えない二宮の顔。
その様子を少し離れたところから観察している西刑事と、西に合流した原田刑事。
そのとき、じっと立っていた二宮が動いた。
安置室に目を向けると、その方向に向けて深々と頭を下げる。
その頭は、泣き声が止むまで上げられることはなかった。
「ねぇ、原田さん」
西刑事が、小声でつぶやく。
「やっぱり、彼は犯人じゃないと思います」
「どうしてそう思う?」
「刑事の勘ってやつですよ」
「バカヤロー、お前にゃ30年早い!」
原田刑事は一喝した。
「あの45度の立派なお辞儀は、俺たちに対するパフォーマンスかもしれない。どうせお前、尾行してるの気づかれてるんだろ?」
「ま、まさかぁ」
・・・そんな緑色の顔の人が付いてきたら、気づかないほうがどうかしている。
「一時の感情の高ぶりで殺してしまったことに対する、罪滅ぼしの表れかもしれない。殺しちゃってごめんね、みたいな」
「謝って済む話じゃないですけどね。あ~あ、なんで人の動機を悪く見るかなぁ?オジサンって嫌だわぁ」
「疑ってかかるのが刑事なの!」
本当ならば拳骨鉄槌を食らわせるところだが、遺体安置室の前でそう騒いでもいられない。今尾行中でもあるし。
「とにかく、あいつは嘘をついている。あの秘書ロボットが何を隠そうとしているのか、それを暴きだすのが俺らの仕事だ」
濃いグレーの重い静寂に包まれていた遺体安置室から、一瞬の沈黙、そして嗚咽が漏れた。
「あなた・・・」
殺害された一島徹氏の夫人・美音子が旅行先のカナダから帰国し、今、夫の変わり果てた姿との悲しみの対面を果たしている。
子どものいない夫婦だった。大切な伴侶を失った、彼女の傍らで慰めてくれる者は、誰もいない。
一人、力なくすすり泣く声は、二宮が立っている部屋の外にも聞こえてきた。
「・・・」
相変わらず、表情の見えない二宮の顔。
その様子を少し離れたところから観察している西刑事と、西に合流した原田刑事。
そのとき、じっと立っていた二宮が動いた。
安置室に目を向けると、その方向に向けて深々と頭を下げる。
その頭は、泣き声が止むまで上げられることはなかった。
「ねぇ、原田さん」
西刑事が、小声でつぶやく。
「やっぱり、彼は犯人じゃないと思います」
「どうしてそう思う?」
「刑事の勘ってやつですよ」
「バカヤロー、お前にゃ30年早い!」
原田刑事は一喝した。
「あの45度の立派なお辞儀は、俺たちに対するパフォーマンスかもしれない。どうせお前、尾行してるの気づかれてるんだろ?」
「ま、まさかぁ」
・・・そんな緑色の顔の人が付いてきたら、気づかないほうがどうかしている。
「一時の感情の高ぶりで殺してしまったことに対する、罪滅ぼしの表れかもしれない。殺しちゃってごめんね、みたいな」
「謝って済む話じゃないですけどね。あ~あ、なんで人の動機を悪く見るかなぁ?オジサンって嫌だわぁ」
「疑ってかかるのが刑事なの!」
本当ならば拳骨鉄槌を食らわせるところだが、遺体安置室の前でそう騒いでもいられない。今尾行中でもあるし。
「とにかく、あいつは嘘をついている。あの秘書ロボットが何を隠そうとしているのか、それを暴きだすのが俺らの仕事だ」