隠す人
テーブルの上に、アルバムや未整理の写真の入った箱。
「徹さんの遺影に使う写真、選んでたの。ねぇ、どれがいいと思う?」
刑事をソファに座らせると、美音子はアルバムを開いて二人に見せ始めた。
ほぼ初対面の刑事に、夫の人生を締めくくる大切な写真選びに加わらせるなんて、この人はなんて広い心の持ち主なのだ。
アルバムには、会社での日常を切り取った一枚から海外での非日常的な背景の写真まで、一島社長の幅広い活動と交遊関係を表す、実に様々な写真が収められていた。
総理大臣と握手する一島社長。
昭和を代表する2女優に挟まれ、両手に花の一島社長。
アラブの石油王と、ラクダにまたがっている一島社長。
社内の宴会だろうか、ほっかむりをしてドジョウすくいを踊り狂う一島社長。
高級飲食店で美女大勢に囲まれている一島社長。
漁師とマグロを傍らにご満悦の一島社長。
三人が今座っているソファに、美音子と並んで座る一島社長。
どの写真も、一島社長は真ん中で笑っていた。
「こういう写真を見て、奥様は平気なんですか」
原田刑事が、美女や女優にべったりの一島社長に、苦笑い。
「どうして?いいじゃない、みんなから愛されて」
この人は、どこまで心が広いんだ。
「私たちね、政略結婚なの。お互いに別に好きな人がいるって分かった上で結婚してるから、別に何とも思わないわ。フフフ」
美音子は、自分と韓国のイケメン俳優とのツーショット写真を見せる。
おー、ハリウッド俳優との写真もあるぞ。
こちらも、夫に負けず枠に囚われない交友を楽しんでいるようだ。
「でも。徹さんの隣が、やっぱり一番楽しかった」
ソファに二人で座る写真に目を落としつぶやいた美音子の言葉に、一抹の寂しさがにじんだ。
「あ。この写真」
アルバムをめくっていた西刑事が、声を上げた。