隠す人
一島社長と二宮の写真。
最初の事情聴取のときに星野美奈が見せてくれた写真だ。
美音子は、それを見ながら目を細めた。
「色々な秘書の方にお世話になったけれど、惠ちゃんほどよくできた秘書はいなかったわ」
「・・・惠ちゃん?」
「秘書の二宮さん。『惠ちゃん』って呼ぶと、すごく嫌がるのが面白くって」
いいこと聞いた。そりゃ、嫌だろうよ。
鉄仮面のインテリ秘書ロボットと「惠ちゃん」という可愛い呼び名のギャップに、二刑事は顔を見合わせほくそ笑む。
あ、ほくそ笑んでいる場合ではなかった。
「その惠ちゃんなんですけどね」
原田刑事が、ようやく本題に入る。
「一島社長が惠ちゃんに恨みを買うようなことって、何か心当たりはないですか?」
美音子が、言葉を失い目を丸くした。
その後、声を上げて笑い出す。
「オホホホホホホ・・・」
ソファをバシバシ叩きながらひとしきり笑うと、笑いすぎて出てきた涙を拭きながら、
「逆ならいっぱいあるわよ」
と言った。
「惠ちゃんて、ほら、完璧主義者でしょう?徹さんの食事のカロリー計算とかお酒の量とか、きちんと計算して管理しちゃうのよ。で、好きなお酒が飲めなくてよく恨めしそうにしてたっけ」
えーと、こちらがお聞きしたいのは、そういう微笑ましい類の恨みではないんですが。
「でも惠ちゃん独り者だから、自分は意外と不摂生してると思うのよね。ねぇあなた、惠ちゃんもらってくれなーい?」
「え~、私でいいんですかあ?」
♪俺の、
俺の、
俺の話を聞け~♪
原田刑事の電話に着信が入った。
惠ちゃんの見合い話に勝手に盛り上がる女二人を残し、原田は席を離れる。
「でも、結婚しても仕事は続けたいし・・・」
「大丈夫よ、私が言ってあげるから」
原田刑事が、慌てて戻ってきた。
「西、事件だ。行くぞ」
「え、もう?じゃ、最後にもう一つだけいただきます」
西が慌てて、テーブルの上の高級菓子を口に詰め込む。
「ホーヒアンベフア゛?」
(どうしたんですか?)
「二宮の自宅マンションが、何者かに荒らされたそうだ。現場に急行するぞ」