隠す人


一島重工の片隅にある、掃除用具置き場。
キャスターのついたゴミ箱と吊るされたモップの脇に、ちょっとしたロッカーコーナーがあり、西刑事が今私服に着替えているところだ。(西刑事のお着替えシーンは、皆さんが期待されるような色気はないので、描写を割愛させていただきます。)

「昨日も一睡もしないで張り込んでたんだろ?俺が代わってやるよ」
先輩刑事がそう言って、二宮の尾行を代わってくれたのだ。
その先輩刑事には、「いえ、昨日は夢の中で二宮と交際する事になり、ラブラブ記者会見を開いてました」ということは、決して言えない。

隣に設けられた休憩用のこあがりに、掃除婦の小岩節子がちょこんと座り、西が着替え終わるのを待っていた。

「で、捜査は進んでんの?」
節子から掃除婦の衣装を何度か借りているうちに、二人はすっかり打ち解けていた。

節子は、持っていた週刊誌を広げ、西に見せる。
そこには、デカデカと
『冷徹社長秘書は”超”朝型人間』
などと、事件が朝に起きたことを皮肉った見出し。
二宮の目隠しつきの写真がそのページを飾っていて、週刊誌業界でも二宮は完全に犯人扱いされていた。

「ほんとに二宮さん、犯人なのかね?」

節子は、週刊誌を見ながら首をかしげる。

「どうなんでしょう」

一応関係者である節子には手の内を見せられないので、言葉を濁す。
濁したものの、西刑事も節子と全く同じ心境でいた。


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