隠す人


刑事を撒くのは、いとも簡単だった。
まぁ、尾行しているのが西刑事だったら、もっと簡単だったけど。

二宮は今日も、例の地下室で調べ物をしていた。

調べても調べても、何も分からないまま。
無駄に日にちが過ぎていく。

鎖で体を縛られているように身動きが取れない感覚が、日増しに強くなっている。

早く、何らかの結論を出さなければ。

あの刑事が言ったとおり、
自分がすべき最後の仕事を、果たせないまま終わってしまうかもしれない。

二宮は焦っていた。
書類に没頭する余り、気配を殺して彼を伺う二つの目に気づかなかった。


突然の物音に、はっとする二宮。

奥の可動式書架の列に向かって声をかける。

「誰かいるんですか?」

返事はない。

様子を見に行くと、書架の列の間に、本が落ちていた。
これが落ちた音かもしれない。
二宮が、その狭い通路に入り本を拾いあげた時だった。

カチャン

可動式書架のストッパーが、外れる音がした。
続いて、書架を動かすハンドルが回り始め、書物の詰まった書架が二宮に迫ってくる。

「!」

危険を察知した二宮は書架を両手で押し戻そうとするが、本がぎっしり詰められた書架の重量は相当なもので、びくともしない。

ハンドルを回す人影が、薄暗い照明に照らされて、床に長く伸びているのが一瞬見えたが、すぐに書架に視野を遮られる。

二宮は書架の間に挟まれた。
本の壁は、二宮の体を容赦なく押し潰していく。

メガネが足元に落ちた。
ミシミシと、体中の骨が軋み始める。

「・・・うっ・・・」

肺が圧迫されて、息ができない。
苦痛に顔を歪める二宮。

意識が、・・・少しずつ遠のいていった。



(5.迫り来る敵意 終)
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