隠す人
それは、手書きの帳簿のコピーだった。
出金と入金欄のある、ごくシンプルな帳簿。
そこに、走り書きのような字で金額が記録されている。
『交際費から:3000(入)
SK:300(出)
NH:50(出)
旅費から:20.45(入)
ST:20,000(出)』
欄外に鉛筆書きで書かれているメモに、二人は目を見開いた。
『S:S沢先生
N:N省
K:献金
H:発注依頼料
T:何らかの支払の立替払金、と思われる』
「S沢先生って、政治家の?」
「西、これは」
記号を組み合わせ略字を解読すると、こうなる。
S沢先生への献金
N省への発注依頼料
S沢先生の支払の、立替払金
「・・・これは、不正なカネの帳簿だ」
「で、でも。S沢先生に300円って安くないですか?遠足のおやつじゃあるまいし」
「違う、西。単位は「円」じゃなく、「万円」だ」
殺人事件の犯人探しのつもりだったのが、とんだものを掘り当ててしまった。
特捜本部が、泣いて喜びそうな資料だ。
「一島社長が、二重帳簿をつけていたっていうことですかね?」
「可能性はあるが、それは低いだろうな。これはコピーだ。コピーを隠し持っておこうと思ったのは、原本が社長の手元にはないからだろう。Tの意味も、よく分かってないみたいだし」
二人は顔を見合わせた。
「つまり、社長は社内で行なわれていた何らかの不正案件について、極秘に調査を進めていた。ということだろう」
「封筒、もっと開けましょう!」