隠す人
次の封筒には、さらに物騒なものが入っていた。
開封済みの、白い封筒。
表には何も書かれていないが、開封された部分に赤いものが滲んでいる。
「・・・血?」
恐る恐る、封筒の口を開く西刑事の指先に、チクリと鋭い痛みが走った。
「封筒の先に、剃刀が仕込んである!」
滲んでいる赤いものは、封筒を開封しようとした一島社長の指からにじみ出た血液だろう。
剃刀に触れないように、そっと中身を出した。
紙が一枚。
大きな文字が縦に三行、並んでいた。
こう書かれていた。
『二重帳簿カラ手ヲ引ケ。
サモナクバ、
オ前ノ大切ナモノヲ奪ウ』
二刑事は、立ち尽くす。
「・・・一島社長は、脅迫を受けていたんですね」
「そのようだな」
一島社長は、社内でなされていた不正な二重帳簿に関する調査を行い、恐らくその帳簿をつけていた人物から調査をやめるよう脅迫を受けていた。
「大切なもの、か」
発覚した新たな事実を前に、これまで証拠として挙げられたものを一生懸命組み合わせようと考える刑事たち。
この帳簿をつけていた人物が、恐らく一島社長を殺した犯人だ。
「節子さん。これが捨てられていた日付は、何日か分かりますか?」
事の重大さがよく分からず、ポカンとしていた節子に、原田刑事が尋ねた。