隠す人
「・・・これは?」
しばらくの沈黙の後、ようやく二宮が口を開いた。
答えを聞くのを、恐れているような口ぶりだった。
「事件発生の一週間前、社長室のごみ箱に入れられていたものです」
原田刑事が、言葉を選びながらも、二宮が最も恐れていた答えを口にする。
「つまり、一島社長は・・・脅迫を受けていたのです。この、『二重帳簿』のことで」
二宮が、視線を窓の外に向ける。
平静を装っているものの、その目には明らかに動揺が広がっていた。
「二宮さん。二重帳簿について、何か知りませんか?例えばあなたが二重帳簿をつけていた、とか。あるいは・・・二重帳簿に関する事実関係を調べていた、とか」
「知りません」
「二宮さん!」
「知りません!」
イトウニシキが、二宮の大声に驚いて岩陰に身を潜めた。
水槽に空気を送るポンプの音だけが、部屋の中に響いている。
強情な奴だ。
一島社長も、さぞかし苦労しただろう。
しばしの沈黙の後、原田刑事が軽いため息をついた。
「・・・分かりました。それでは、質問を変えましょう」
脅迫文書を、もう一度掲げる。
「二文目の、『大切ナモノ』というくだりですが。社長の大切なものって、何でしょうね。心当たりはないですか?」