隠す人
8.社長の意志
8.社長の意志
夜のとばりが降りた室内に、唯一響いている空気ポンプの低い音。
ドアノブが静かに回る。
音もなく開く扉。
窓景の高層ビルの先に灯された赤い光だけが、かろうじて室内のシルエットを黒く浮かび上がらせている。
その中を、慣れた様子で静かに動く、人の影。
水槽の前まで来ると、立ち止まった。
イトウニシキが、餌の時間と勘違いして水面近くにやって来る。
二宮だった。
「・・・」
二宮は、ジャケットを脱ぎ捨て、シャツをまくる。
そして水槽の蓋を開けると、躊躇せずに腕をその中に突っ込んだ。
逃げ惑うイトウニシキが、水しぶきをあげる。
手はまっすぐに、水槽の底に沈んでいた擬岩をつかむ。
その岩を裏返すと、魚が入って休めるように空洞になっている部分が現れた。
そこに、錠剤を大きくしたような形の、防水カプセルがはめ込まれていた。
それを取り出し、蓋を開ける。
白いUSBメモリが、中から出てきた。
「・・・」
二宮がそれを手に取り、大切そうに握ったその時。
耳元で、
カチャン
と、聞き慣れない金属音が響いた。
「こんなところに、隠してたなんて」
続けて、女の声がした。