隠す人
二宮が、手の中のUSBメモリを原田刑事に渡す。

「二重帳簿に関する資料が、スキャンしてこの中に入っています。一島重工の内部で行なわれていた、不正な金銭の収受記録です。お確かめください」

原田刑事は、USBメモリを受け取る前に、念を押した。

「二宮さん。これが我々警察の手に渡るということの意味を・・・ご存知ですね?」

二宮はうなずく。

「えぇ。これが、社長の意志です」

「・・・二宮さん、あなたね」

それを受け取ると、原田刑事は二宮に説教を始めた。

「我々があなたの尾行を続けていなければ、あなた今、確実に殺されてましたよ?」

「えぇ、そうでしょうね」
二宮は、相変わらず涼しい顔。

「事件の真相を知る人物が、その秘密を明かそうとする直前に真犯人に殺される。このパターンは、二時間もののサスペンスドラマの定番じゃないですか!それと知っていて、なぜこんな危ない真似をするんですか!」

「あなた方が、不毛な尾行ごっこばかりに時間を割いて、さっぱり真犯人に近づかないからじゃないですか」

二宮の冷たい視線が、原田刑事の胸に刺さる。
む、むかつく~!
でも言い返せない自分が、悔しい~!

「こうすれば、犯人を簡単におびき寄せられる。最もスムーズであり、かつ経費のかからない方法と判断しました」

「私たちが来なかったら、どうするつもりだったんですか?」
西刑事が、時計を見る。
時刻は8時を少し過ぎたところ。
二宮の言葉を真に受けていれば、二人は地下の駐車場で二宮が来るのをいそいそと待っている頃だろう。

「いいえ、お二人は絶対に私の尾行を続けると確信していました」

「随分な自信ですねぇ」

「私はあなた方に、嘘ばかりついていましたからね。これで私の言葉を全て信じて行動するなんて・・・」

二宮が、爽やかな笑顔を二人に向けた。
「学習能力のない、ただのサルです」

「サル~?!」

原田刑事の耳から、湯気が吹き出た。

「この秘書ロボットめ、黙って聞いてればいい気になりやがって!公務執行妨害で逮捕するぞ、コラ!」

「原田さん、落ち着いて!」
西刑事が、怒りに我を忘れる原田刑事を必死でなだめた。



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