隠す人


薄暗い、全てが灰色の小部屋。
真ん中に、立てつけの悪いテーブルと折りたたみイスが置かれている。

そのイスに座っているのは、沢渡夏子。

後ろに一つに縛られた髪の毛。
化粧が落ちて久しい、青白い顔。
いい香りも、もうしない。
質素な開襟シャツに身を包み、うつむいている。

向かいに座る原田刑事は、頭をボリボリかきむしった。

「・・・カツ丼でも、食いますか」

「・・・」
黙ったまま、沢渡は首を振る。

参ったな。
男だったら、机叩いて脅しつけたりするんだが。

逮捕されてから2日が過ぎたが、沢渡はずっと黙秘を続けていた。

「失礼します」

西刑事が入ってくる。
沢渡を一瞥すると、原田刑事の耳元でささやいた。

「・・・原田さん。副社長の、事情聴取が終わりましたけど」

副社長と聞いて、沢渡が助けを求めるように顔を上げた。

「・・・副社長は、二重帳簿についても社長殺害についても、関与を全面否認しています。全て、彼女が一人で勝手にしたことだ、と」

西刑事は、わざと沢渡の耳に届くように話す。
沢渡は絶望の表情を浮かべ、思わず口を開く。

「違います!・・・全ては、副社長の指示でした」


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