隠す人
「・・・私は2年前から、副社長の指示で決算には載せられない『裏のお金』の管理を任されました。
理想主義者の一島社長は、クリーンな経営を心がけていたようですけれど、副社長の考えは違っていました。
法に触れる行為であることは分かっていましたが、企業はそういうことをしなければ、熾烈な競争に生き残れないんです。
・・・今年に入ってから、その金を管理する二重帳簿の存在が、噂で社内に広まりました。
不正を嫌う一島社長が、極秘で調査を進めるだろう、ということは容易に想像できましたし、実際二宮が、私の周囲をかぎ回っていることに気づきました。
・・・彼ほどの業務遂行能力があれば、不正行為が明らかになるのは時間の問題です。
副社長はそれを恐れ、調査をやめさせるために社長に脅迫文を送ったんです。
社長は脅迫には、動じませんでした。
あの日予定されていた重役会議で、社長はその件を公表しようとしていました。
・・・本当は、あんなことしたくありませんでした。
でも、時間がなかったんです。
会社を守るためには、
・・・二人を、消すしかなかったんです。
胸に、一発ずつ。
射撃には自信ありましたから、2発撃てば、全てが終わるはずでした。
・・・でも、社長は。
撃っても撃っても、倒れないんです。
こちらに背を向けたまま、怪物みたいに立ち続けて。
その背中で、二宮をすっかり隠してしまっていたので、私は彼を撃てませんでした」