隠す人
「・・・マンションの上から植木鉢を落としたのも、彼の部屋に忍び込んだのも、あなたですか」
「・・・はい」
沢渡が、涙に濡れる顔を上げた。
「でも!全ては、副社長が指示したことなんです。
私は!副社長の秘書として、指示されたとおりに動いただけです。
それなのに・・・」
原田刑事は、たまらなくなって席を立った。
秘書を守るために、自分の体を盾にした社長のことが、頭をよぎる。
その社長の意志を果たすために、自らを危険にさらした秘書のことが、脳裏に浮かんだ。
彼女もまた、彼と同様に非常に有能で忠実な秘書なのだろう。
ただ、彼女の仕えた人は、彼女を取替えの効く道具としか思っていなかった。
最初から、事が明るみに出れば、全てを彼女に負わせるつもりだったのだろう。
仕える人が違っていれば、彼女は今もまだ、日の当たる場所で髪をなびかせながら、いきいきと仕事をこなしていただろうに。
「・・・あなたは、仕える人を間違えたんですよ」
原田刑事が独り言のようにつぶやいた言葉に、沢渡夏子は泣き崩れた。