隠す人
*
その頃。
一島邸に、一通の郵便が届いていた。
美音子がカナダで滞在していたホテルから、美音子が発った後に届いたとメモ書きが添えられて。
入っていたのは、一島徹が美音子に送った、エアメールだった。
『美音子へ
急にカナダに行けなんて言って、済まなかった。
君は薄々感じていたかもしれないけれど、社内で少し不穏な事態が起きていて。
取り越し苦労だといいのだけれど、君が万が一でも危ない目にあったらいやなので、カナダに急遽飛んでもらうことにしたんだ。
惠ちゃんにはロンドンに行ってもらうことにした。
事情を話してないから、本人は嫌がってるけど。
この手紙が着く頃にはもう報道されているかもしれないが、社内で不正事件が発覚したので、近く公表することにした。
責任をとって、社長を辞めることになるかもしれない。
そしたら、君の憧れの、「あまり歩き回らなくて済む家」をカナダ辺りで見つけて、二人で静かに暮らそうか。
そのほうが、今より幸せかもしれないね。
全てが無事に終わったら。
惠ちゃんにほんとのことを全部、話そうと思う。
「何を今さら」と、許してはくれないかもしれないけれど。
もっと早く話すべきだったと、今は後悔している。
人生は、いつ何が起こるか分からない。
大切な人に、大切だと思う気持ちを、きちんと伝えておくべきだった。
美音子と惠ちゃんは、僕の愛する大切な人。
次に会ったときに、きちんとそのことを伝えたいから、
二人には、そのときまで元気でいてくれないと困る。
カナダはもう朝晩さむいだろうから、風邪をひかないように。
徹 』
その頃。
一島邸に、一通の郵便が届いていた。
美音子がカナダで滞在していたホテルから、美音子が発った後に届いたとメモ書きが添えられて。
入っていたのは、一島徹が美音子に送った、エアメールだった。
『美音子へ
急にカナダに行けなんて言って、済まなかった。
君は薄々感じていたかもしれないけれど、社内で少し不穏な事態が起きていて。
取り越し苦労だといいのだけれど、君が万が一でも危ない目にあったらいやなので、カナダに急遽飛んでもらうことにしたんだ。
惠ちゃんにはロンドンに行ってもらうことにした。
事情を話してないから、本人は嫌がってるけど。
この手紙が着く頃にはもう報道されているかもしれないが、社内で不正事件が発覚したので、近く公表することにした。
責任をとって、社長を辞めることになるかもしれない。
そしたら、君の憧れの、「あまり歩き回らなくて済む家」をカナダ辺りで見つけて、二人で静かに暮らそうか。
そのほうが、今より幸せかもしれないね。
全てが無事に終わったら。
惠ちゃんにほんとのことを全部、話そうと思う。
「何を今さら」と、許してはくれないかもしれないけれど。
もっと早く話すべきだったと、今は後悔している。
人生は、いつ何が起こるか分からない。
大切な人に、大切だと思う気持ちを、きちんと伝えておくべきだった。
美音子と惠ちゃんは、僕の愛する大切な人。
次に会ったときに、きちんとそのことを伝えたいから、
二人には、そのときまで元気でいてくれないと困る。
カナダはもう朝晩さむいだろうから、風邪をひかないように。
徹 』