隠す人
*
電話応対していた星野が、聞きなれない音に顔を上げる。
「今の音・・・何?」
会議室では、課長と掃除婦の小岩が顔を見合わせた。
「社長室からだぞ」
副社長室のドアが開く音がして、秘書の沢渡が廊下に出てきた。
社長室の扉の前に、フロアにいた人々が集まり、顔を見合う。
閉じられた扉の向こうからは、今は何の音もしない。
少し遅れて副社長室から、男が出てきた。一島重工の副社長・牧沢浩だ。
「何の騒ぎだ?」
「分かりませんが、社長室からのようです」
全員の目が扉に向けられる中、代表して牧沢副社長が、ドアをノックする。
返事はない。
ゆっくりとドアを開けてみた。
「社長?」
次の瞬間。
視界に映った、日常とはかけ離れた世界の光景に、皆言葉を失った。
ドアを開いた正面、部屋の真ん中に、一島社長がうつ伏せに倒れていた。
ダークグレーの背広の背中に穴が開き、その穴を中心にした赤黒い染みが、今も目に見えるスピードで広がっていくのが分かる。
秘書の二宮は、社長の向こう側、頭の脇にしゃがみこんでいた。
顔を上げてこちらを見る。その顔は蒼白ではあるが、いつもの淡白な無表情を保っており、それがこの尋常ではない光景とはあまりにも似つかわしくなく、不気味に見えた。
全員が起きた事柄を理解するのに、数秒かかった。
「は、早く救急車を!」
課長が、やっと口を開いた。
「それと警察を」
落ち着き払った二宮が付け足す。
身動きしない社長の首にあてていた指を離した。
「社長はもう亡くなっておられます。・・・残念ですが」
(1.悲劇までのカウントダウン 終)
電話応対していた星野が、聞きなれない音に顔を上げる。
「今の音・・・何?」
会議室では、課長と掃除婦の小岩が顔を見合わせた。
「社長室からだぞ」
副社長室のドアが開く音がして、秘書の沢渡が廊下に出てきた。
社長室の扉の前に、フロアにいた人々が集まり、顔を見合う。
閉じられた扉の向こうからは、今は何の音もしない。
少し遅れて副社長室から、男が出てきた。一島重工の副社長・牧沢浩だ。
「何の騒ぎだ?」
「分かりませんが、社長室からのようです」
全員の目が扉に向けられる中、代表して牧沢副社長が、ドアをノックする。
返事はない。
ゆっくりとドアを開けてみた。
「社長?」
次の瞬間。
視界に映った、日常とはかけ離れた世界の光景に、皆言葉を失った。
ドアを開いた正面、部屋の真ん中に、一島社長がうつ伏せに倒れていた。
ダークグレーの背広の背中に穴が開き、その穴を中心にした赤黒い染みが、今も目に見えるスピードで広がっていくのが分かる。
秘書の二宮は、社長の向こう側、頭の脇にしゃがみこんでいた。
顔を上げてこちらを見る。その顔は蒼白ではあるが、いつもの淡白な無表情を保っており、それがこの尋常ではない光景とはあまりにも似つかわしくなく、不気味に見えた。
全員が起きた事柄を理解するのに、数秒かかった。
「は、早く救急車を!」
課長が、やっと口を開いた。
「それと警察を」
落ち着き払った二宮が付け足す。
身動きしない社長の首にあてていた指を離した。
「社長はもう亡くなっておられます。・・・残念ですが」
(1.悲劇までのカウントダウン 終)