隠す人
「・・・星野くん。もう出てきていいよ」
佐伯課長が、クローゼットに声をかける。
扉が開いて、中から星野が出てきた。
「・・・ヒック」
一目見て、大泣きした直後と分かる顔。
「・・・いいのかい、見送りに行かなくて」
「会ったら、また泣いちゃうから。ウゥ・・・」
佐伯課長は、少々呆れ顔。
「そんなに好きだったら、さっさとコクっちゃえばいいのに」
娘たちが使っている言葉を、ちょっと使ってみた。
星野は、首を振る。
「違うんです、ヒック。今の私は、先輩に似合う女性なんかじゃ、ウッ、全然ありませんから」
自分の机に置かれた、膨大な量の引継ぎ資料に手を置く。
「もっともっと勉強して、自分を磨いて、立派な秘書になります。二宮先輩に、認めてもらえるような」
まだ涙の乾かないその瞳には、成長を誓う決意がキラキラと輝いていた。
「・・・君が立派な秘書になる頃には、二宮は立派なオッサンになってるだろうな」
佐伯課長が、ひやかす。
「俺みたいに、ハゲて太ってたりして。楽しみだなあ、アハハ!」
「茶化さないで下さいよ、もう!」