隠す人
「・・・惠ちゃん、怒った?」
「・・・怒っていませんよ」
「嘘。目が怒ってるよ」
「怒っていませんが、惠ちゃんはやめて・・・」
「怒ってないって!よかった~」
「社長、良かったですねぇ」
話を半分しか聞かない二人は、社長室から出てくると、
「じゃぁ今度は惠ちゃんと二人で撮ろう!」
とさらに盛り上がる。
「私は、仕事がありますから!」
嫌がる二宮を無理やり立たせて、一島社長は後ろから首に抱きついた。
「惠ちゃん、笑って!あのカメラ、笑顔にならないとシャッター切れないの」
「だからその呼び方は、やめてくださいって!」
「いいなあ!社長、私のこともみーちゃんって呼んでください」
「んー。だめ」
「え~、どうして」
「ほら惠ちゃん。笑って!」
フラッシュが光った。
・
・
・
同じ場所に、今は二宮が一人。
あの時と同じ場所とは思えないほど、室内は静かで冷え切っていた。
最初から一人だった。
また一人に戻っただけだ。
そのはずなのに。
耐えられないほど、寒く感じる。
一瞬だった。
だけど、そのそばは確かに・・・
暖かかったのだ。
そのことに気づいて、二宮は
一人、声を上げて泣いた。