隠す人
*
1階のエントランス・フロアに降りてきた二宮が、驚いて足を止めた。
向かっていた自動ドアが開き、外から美音子が走ってきたのだ。
「奥様?」
二宮を見つけた美音子は、大きく手を振る。
「惠ちゃーん!」
広々としたホールに、響く美音子の声。
「・・・」
行き交う人々の視線が、惠ちゃんに集まる。
困惑顔の二宮。
そんなことはお構いなしに、美音子は二宮に駆け寄った。
「あぁ、間に合ってよかった!」
息を整えている美音子を前に、二宮が目を伏せた。
「・・・奥様」
そして、深々と頭を下げた。
「本当に、申し訳ありませんでした。そばにいながら、私は社長をお守りできませんでした。秘書として、失格です」
「・・・」
その二宮の首に、ふわりとした何かがかけられる。
「?」
二宮が顔を上げた。
そこにあったのは美音子の、普段通りの上品で無邪気な笑顔。
「これ、徹さんの形見分け。もらってくれる?」
二宮の首にかけられたのは、一島社長が冬に愛用していたバーバリーチェックのマフラーだった。
美音子は、マフラーをかけた二宮を見て、嬉しそうにうなずく。
「うん、よく似合ってる」
そして、マフラーの片端を手にすると、首に沿うように後ろに流した。
風が入らないようにと胸元を手で押さえながら、美音子は二宮を見上げる。
「ロンドンは寒いから・・・風邪、ひかないようにね」
「・・・はい」
「今度、遊びに行ってもいい?」
二宮が笑顔でうなずいた。
「えぇ、お待ちしています。それまでに、ロンドンの見所をチェックしておきますね」
美音子は笑った。
惠ちゃんは完璧主義者だから。
私が行く頃には歩くロンドン大辞典になってるわね、きっと。
1階のエントランス・フロアに降りてきた二宮が、驚いて足を止めた。
向かっていた自動ドアが開き、外から美音子が走ってきたのだ。
「奥様?」
二宮を見つけた美音子は、大きく手を振る。
「惠ちゃーん!」
広々としたホールに、響く美音子の声。
「・・・」
行き交う人々の視線が、惠ちゃんに集まる。
困惑顔の二宮。
そんなことはお構いなしに、美音子は二宮に駆け寄った。
「あぁ、間に合ってよかった!」
息を整えている美音子を前に、二宮が目を伏せた。
「・・・奥様」
そして、深々と頭を下げた。
「本当に、申し訳ありませんでした。そばにいながら、私は社長をお守りできませんでした。秘書として、失格です」
「・・・」
その二宮の首に、ふわりとした何かがかけられる。
「?」
二宮が顔を上げた。
そこにあったのは美音子の、普段通りの上品で無邪気な笑顔。
「これ、徹さんの形見分け。もらってくれる?」
二宮の首にかけられたのは、一島社長が冬に愛用していたバーバリーチェックのマフラーだった。
美音子は、マフラーをかけた二宮を見て、嬉しそうにうなずく。
「うん、よく似合ってる」
そして、マフラーの片端を手にすると、首に沿うように後ろに流した。
風が入らないようにと胸元を手で押さえながら、美音子は二宮を見上げる。
「ロンドンは寒いから・・・風邪、ひかないようにね」
「・・・はい」
「今度、遊びに行ってもいい?」
二宮が笑顔でうなずいた。
「えぇ、お待ちしています。それまでに、ロンドンの見所をチェックしておきますね」
美音子は笑った。
惠ちゃんは完璧主義者だから。
私が行く頃には歩くロンドン大辞典になってるわね、きっと。