隠す人
黄色に紅葉した街路樹の下を、スーツケースを引き歩いていく二宮。
北風が吹いて、足元を落ち葉が駆けていく。
寒そうに身をすくめ、通り過ぎる人々。
二宮は少し立ち止まり、顔をマフラーの中にうずめた。
暖かい。
大きく息を吸うと、凛とした冷たい空気と一緒に、社長の愛用していた整髪料の香りがかすかに入ってくる。
「笑って、惠ちゃん」
社長の声が後ろから聞こえたような気がして、
二宮は、マフラーの下で笑みを浮かべた。
父の残した淡いぬくもりを、
確かにその胸に感じながら。
背筋を伸ばして、
二宮はまた、歩き始めた。
【 完 】