Separate World
リビングに戻ると、そこはもぬけの殻だった。恭はまだ帰っていないし、隼人は風呂にでも入りに行ったのだろう。
――暇だな……。
蒼依はしばらくリビングで一人佇んでいたが、やがてゆっくりと立ち上がって玄関へ向かっていった。
外に出ると、心地よい夜風が頬を撫でてくれた。そんな風を感じながら明るい星空の下を歩いていると……
ダン ダン ダン
ボールを弾ませるような音が蒼依の耳に響いてくる。音の方に目をやると、小さな空き地内でバスケットボールを扱う恭が見えた。
その空き地には昔から一つのバスケットゴールが設置されている。恭は、このゴールを毎日のようにシュート練習に使っていた。
「きょーう!」
蒼依の呼びかけに、恭がドリブルをやめて振り返る。
「このゴール、まだあったんだ。小さい頃、よく一緒にバスケして遊んでたよね」
さびれたバスケットゴールを懐かしそうに見上げる蒼依に、恭が柔らかく笑いかける。
「おぅ。何度勝負しても俺の圧勝だったよな。蒼依、下手すぎんだもん」
恭が茶化すように蒼依の頭をくしゃっと撫でた。しかし、蒼依は悔しそうに睨みながら恭の手を払う。
「そんなの昔の話でしょ!」
つんっとそっぽを向く蒼依に、恭がボールを投げてよこした。
「じゃあ、久しぶりに勝負するか? ルールは昔と一緒でいいよ。蒼依は二回で俺は五回、先にゴール入れた方が勝ち」
蒼依はにっと笑い、ドリブルを始める。
「じゃあ、いくよー!」
蒼依がそう言った直後、ゴールに向かって駆け出した。
一対一のためパスをする相手もいない。蒼依は自分の体の小ささを利用し、恭の腕の下を擦り抜けてシュートを決めた。
「……え!?」
蒼依のシュートに驚きを隠せない恭へとボールを渡しながら、蒼依が得意げに言った。
「去年の球技大会で私がバスケにあたったの覚えてないの? 友達にみっちりしごかれたからね……昔みたいにはいかないよ」
しばらく茫然と突っ立っていた恭だったが、やがて面白がるような笑みを浮かべて呟いた。
「そっか。蒼依も一応成長してんだ。じゃあ、手加減はいらねぇよな」