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「にしても、あいつがいなくなって
3年が経つか……」


デザートのリンゴのコンポートを前に
食後の果実酒を口にしながら
ベルナールは懐かしむように目を細めた。



『あいつ』が誰を指すか
バレリーはもちろん、ヴィンセントも分かっている。



バレリーはナイフを動かす手を止めて
答えた。


「はい……。
おじさんも心配してくれてるのに
どこへ行ったのか……」



3年前に仕事先から突如姿を消した父、ルガートは未だに音信不通のままだ。



「そうか……。
私も尽力を尽くして捜しているが
未だに情報はとんと皆無だよ。
すまない」



「いいえ!
そんな、逆にこちらがお礼を言わなければならないのに」



慌てて言ったバレリーを
片手で押しとどめて
ベルナールはまた一口果実酒を呑む。



「ルガートは仕事相手というより
私にとっては善き理解者、友人なのだよ。
友の為に尽力するのは当然さ」



バレリーもよく覚えている。

父に連れられてきたこの屋敷で
滅多に笑うことのない父が
ベルナールと楽しそうに笑いあっていた日々を。



「あいつは……
本当に絵が好きだった。
絵画をろくに知らない私を
嘲ることなく一から教えてくれたもんだ」



貴族のステータスである
社交界では絵画の話も飛び交うのは当然で。


庶民から成り上がりのベルナールが知らないのも当然だが
そのままでいられないのが
社交界なのである。


「政治や経済にはからっきしだったが
絵のことになると茶会のマダムのように
お喋りになる」



「……父は、ベルナールおじさんと話すのをとても楽しみにしてました。
そのために慣れない絵画サロンへも出席して
流行の絵を研究したりして……」


父は決して多弁ではなかったけれど
いつも暖かかった。

絵の手解きをしてくれる時など
下手くそでも決してダメだとは言わなかった。


変わりに、絵の声を聞けと常に諭された。
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