Gallery-Back Yard-へようこそ!
「バレリー! 珍しいな、外出てるなんて」



そう言って身を乗り出したのは
幼なじみ兼、悪友でもあるヴィンセント=ボワールだった。


キチッとオールバックに整えられた金髪に
流したサイドは品の良い紺のリボンで一つ結びされている。

目はキツい切れ長で、だが右目の下の泣きぼくろが愛らしさを出していた。


見るからに仕立ての良いシャツも
彼が庶民でないことを示している。



彼はいわゆるブルジョワ階級の子息で
仕事でボワール家に出入りしていた父にくっついて
ヴィンセントとはよく遊んだのだ。


今はアカデミーに通っているはずだったが……。



「ヴィンス! きみこそ学校は? 今日は休み?」



「いや、今日はオヤジの仕事の手伝いで休んだ。
オヤジのやつ、跡取りだからってもう見習いで働かせるんだぜ」


金髪をかきあげながら
忌々しそうに友は語った。



「そういうお前はどこ行くんだ?」


「ちょっとそこの角のパン屋までね。
さすがに10日間外に出てないと食糧尽きちゃって」


あはは、と笑うバレリーに
ヴィンセントも絶句するしかない。



10日も外に出ず生活するなんて
オレには絶対ムリだな……。



「また修復の仕事積んでんのか?」



口調はぶっきらぼうだったが、眼差しは心配だと語っている。



修復の仕事、とは
絵画の風化による修復や、治しをする仕事のことだ。


ときどきツテで
廻して貰ったりしている。


Gallery-Back Yard-は画廊だが、
現在はどちらかというと
修復の方がメインだったりする。



「一件治しで貰っててね、熱中し過ぎちゃってるだけ。
別に忙しくはないんだ」



ヴィンセントがふうん、と言うのと
後続車からの警笛が聞こえるのは同時だった。


「っと……、まずいな。
まぁとにかく乗れよ。
昼飯くらい出してやるからさ」



「いいの!?
うっれしいなぁ~、久しぶりにまともな食事にありつけるよ!」



言うが早いかバレリーは
運転手が開けたドアから乗り込んだ。
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